第一話 赤い石
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どこだ?・・・ここは・・・・。
気がつくと俺は、埃っぽい床に仰向けに倒れていた。
暗い・・・窓には板が打ち付けられていて、明かりは燃える暖炉の炎だけだ。
「っ・・・・!」
どうやら頭を打ったらしい。
鈍い痛みが走る頭を押さえながら目を閉じ、記憶を辿る。
確か今日は2月14日だ。これは間違いない。
なぜかって?靴箱に生まれて初めてのチョコと手紙が入っていた記憶があるからさ。
しかも相手は我が校のアイドル、星野あきちゃんだ。忘れられるはずがないね。
そして放課後俺は、殺意の目で襲い掛かってくる同級生どもを蹴り飛ばしながら、手紙に書いてあった約束の場所へとむかっていたんだ。
たしか・・・そこで・・・・そうだ!
思い出した。
でっかい穴がポッカリ足元に出てきて俺を吸い込んで、そこで凄い眩暈に襲われて気が遠くなったんだ。
ジュウウ・・・
「痛っつ!」
焼けるような痛みが走り、目を開けるとそこには髭の長いジジイが立っていた。
そして俺の左手の甲に、焼印・・っていうのか?それを押し付けやがったんだ。
左手には六亡星のアザができていた。なんなんだ?これは。
「それは、お前をこの時間と場所に封印するためのものだ。」
ジジイは言った。正直、まったく意味が分からん。
というか名を名乗れ。誰だてめーは。そしてここはどこだ。
「ええい面倒くさい。いっぺんに質問するな。ワシはハインズ・ミザール。時空を操る魔術師だ。
そしてここはお前の生きていた時間平面から500年ほど遡ったところだ。」
・・・なんだって?魔術師?500年?思わずポカンとしてしまった。
「お前には勇者として働いてもらう。」
は?勇者?ますますポカンとする俺。
そんな俺にミザールはこう説明した。
なんでも、不思議な赤い石がこの辺りに飛来してから怪物の力が強まってしまった。
どうした物かと、赤い石の言い伝えを調べていると、1つの文書を発見。
その中には、「未来から来たブルーグレーの目を持つ純日本人の少年」が勇者となり赤い石を探し出した。とかそんなことが書いてあったのだそうだ。
その少年を探すべく、未来の時間平面を隈なく探していると、俺にたどり着いたらしい。
なんつー迷惑な話だ。
「それがお前の使命だ。それが終われば元の時間に戻してやる。」
ミザールは言う。
ちょっとまて。俺はRPGの主人公みたいに特別な能力とか持ってるわけじゃない。普通の高校生だぞ。
冗談じゃねえよ。俺に死ねっていうのかよ。
大体なんで勇者のお手軽レンタルサービスみたいなことしなきゃならんのだ。
今日は・・・そう!学校のアイドル、星野あきちゃんから愛の告白を受けることになってたんだ!てめー今すぐ戻しやがれ。
「赤い石を取り戻さないと我々に未来はない。歴史はここで途切れてしまうのだ。
つまり、未来に住むお前の存在も消える可能性があるのだぞ。」
げ。
俺は少しの間考えて ─と言っても頭は全く働いていなかったが─ 言った。
「どうすりゃいいんだ?」
後に引けないならさっさとその石とやらを取り戻してやろうと考えたんだ。
もしかしたらなんかの冗談だって可能性もあるしな。夢だったらもっといい。
正直、勇者って何をするのかも分からなかったし、戦闘とかいくらなんでも無理。
しかしまぁ、ここで拒否権を発動できたかと聞かれればそれも無理だろう。
なんせ、ブルーグレーの目の少年が勇者をやらないと歴史が変わっちまうらしいからな。
結局は考えてもなんの意味もなかったということになる。
ちっくしょ。
俺の心の中での葛藤を知るはずもないミザールはこう言った。
「お前にはブルンネシュティングという街へ飛んでもらう。そこで、ユキという名のワシの弟子に力を貸してやってくれ。」
名前に心当たりのあった俺が聞く。
まさかそのユキってコは対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースじゃなかろうな。
するとミザールは少しの間黙ってから、
「お前のいた時間平面に存在する小説の登場人物、長門有希とは全くの無関係じゃ。」
と言った。
なんでそんな事まで知ってるんだよ。このジジイは
「ワシは時空を操れるのだ。お前のいた時間平面を探せばこのくらいのことを知るのは他愛無いわ。
なんなら星野あきとかいう娘の個人情報を言ってやろうか?」
素晴らしい申し出だなっていや、さすがにマズイだろ。
それにしても便利な力だな。
つーかその便利能力で赤い石とやらを探せばいいじゃねえか
「それができるならお前なんぞ連れてこんわい。」
むかつくジジイだ。
「とにかく、文書に書いてある特徴の人間であるお前なら何とかなる可能性がある。」
どうでもいいがその文書ってのは信用できるのかよ。
「赤い石の伝説が載っていた物はそれしかなかったのだ。信用できるできないは問題ではない。」
う〜む。
なんというかだ。
そんなどこのどいつが書いたかも分からん怪しい文書のせいで俺はタイムトラベルしてるのか。
しかも向かう先では怪物が蠢いてるらしく、そこに普通の高校生が飛び込んでいくなど
第3者から見たら自殺願望か精神に異常があるとしか思えないだろう。
そして俺は自殺願望も、ましてや精神異常なんかない。普通、いや、少しばかり恵まれているだけの高校生だ。
怪物と戦うスキルなど持ち合わせてはいないし、武器なんてものを持った事すらない。
例えるなら、スポーツなどほとんどした事のない茶道部か何かに
「明日、甲子園でホームラン一人5本ずつ打て」みたいな注文をするようなものだ。無茶にもほどがある。
そんなの長門有希でもいない限り・・・
俺は「ハッ」として言った。
「ミザール。その、ユキってどんなコなんだ?」
長門じゃないのは聞かされたが、こいつの弟子の魔法使いだ。
もしかしたらこいつみたいな便利魔法とか使えるかもしれん。
しかしミザールは、時計を見てこう言った
「行けば分かる。それより今は時間が惜しいのだ。行くぞ。」
え?
いくってどうやって?
それを理解するのに時間は全く必要なかった。
ここに来たときのように、足元にぽっかりと穴が開き、そこに吸い込まれていった。
強烈な眩暈が俺を襲う。気が遠くなっていく。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・
う〜む。
いったい俺はこれからどうなるんだ?