第二話 鮮血
・・・・・・・・・・
・・・・
気がつくと、ベッドに寝ていた。
体を起こす。まだ頭がズキズキしやがる。
顔をしかめながら辺りを見回してみる。ここは・・・・・
「うわっ」
おもわず声が出てしまった。
ベッドの近くに人影があったからだ。
えらい美人がそこにいた。
光を知らないかのような真っ黒な眼でこちらをじっと見ている少女。
白い肌に細いうで、内ハネのシルバーブルーの髪。あ・・・可愛い。
「あ〜えっと・・・名前は?」
しまった。こういうのは自分から名乗るもんだったかな・・・
少女は少しの間じっと俺をみつめてから、
「ユキ」
短く答えた。なるほど、彼女がミザールが言ってたコか。
どっちかというと、長門有希より綾波レイに似てる気がするが、
多分そこは作者の趣味・・・って何喋ってるんだろうね。作者ってなんだ。口が勝手に動いた。
「さあ・・・」
綾な・・・じゃない。ユキが答える。
すこし困惑したような表情も可愛いなぁ・・・
あの性悪ジジイの弟子にしては可愛すぎる。釣り合わん。
えっとだな、ユキ・・・さん?ちゃん?
「どちらでもいい」
そうか、だが面倒なんでユキと呼ばせてもらう。いいよな?
「構わない」
そうか。じゃあユキ。事情は飲み込んでるよな?俺が来た理由。
「ええ。」
じゃあ話は早い。
「手がかりはあるのか?」
さっさと石を探し出して3日ぐらいで帰りたいんだが。って無理だろうな。
ミザールも言ってたけどそんなに簡単に入手できるなら俺なんか要らないだろうし。
いや、でも意外と、歴史のつじつま合わせの為、って可能性もあるかもな。
完全に願望だけど・・・
「手がかりはある」
ユキが口を開く。
「情報屋。可能性はあるわ。」
ほう。
で、その情報屋ってのはどこにいるんだ?
俺が聞くとユキはメモ帳を見ながら、
「23時30分にハチ公前で待ち合わせ。」
ふ〜ん。ハチ公ねぇ〜まぁベターなんじゃ・・・ってハチ公?!
思わずヨダレを噴き出してしまった。ここって確かブルンなんとかって街じゃないのか?
なんでハチ公なんてあるんだ。
ユキは無表情で答えた。
「街中央の噴水跡に立てられたの。」
・・・・
23時20分。
簡素な飯を食った俺とユキはハチ公に向かって歩いていた。
なぜかユキは、俺に剣を持っていくように指示した。なんでだろ。
情報屋ってのに会うだけじゃないのか?いきなりガチバトルなんてゴメンだぞ。
そんな俺の期待は虚しくも裏切られた。
今日あったことを思い出し、自分の順応性に関心しつつ歩いていると、突然ユキが立ち止まり、当然後ろを歩いていた俺はユキにぶつかった。
「スマン。なんで止まったんだ?」
俺が聞くとユキは平坦な声で囁いた。
「何者かが私たちを追けてきているわ。」
なに!
「おそらく・・・敵。」
ユキが微弱な光に包まれたと思った次の瞬間、彼女は残像だけを残して俺の視界から消えていた。
なにがどうなってんだ?
辺りを見回すと、屋根の上で4人の男と戦っていた。
ユキは男達に比べ各段に動きが速い。何かの魔法かな。
男たちは連携攻撃を仕掛ける。
しかしユキは嵐のような攻撃をひらりとかわし、一番大柄な男に手を当て、早口でなにか呟いた。
次の瞬間、男は瞬く間に凍っていき氷の彫像になり、飛散した。
血肉を含んだ氷の結晶が赤く光りながら風に乗り何処かへ消えていく。
俺は呆然として動けなかった。
背筋がゾクゾクして全身の毛が逆立つのを感じていた。
氷のように固まった俺。その胸に熱く滾るものがあった。
ドクン・・・・
心臓の鼓動が早くなり、胸の熱は血管を巡るように全身に広がる。
ドクン・・・(・・・タイ)・・・ドクン・・・・
ドクン・・ドクン(・・・イタイ・・)・・ドクンッ
ドクンッ・・(戦イタイ・・・!)・・・ドクンッ・・ドクンッ・・・
(俺も・・・戦いたいッ!)
・・・・
・・・・・・・・・
正直に言おう。
今の光景を見て、もしかしたら俺はこういう非日常に憧れていたのかもしれないと思った。
高校に入り、中学からやってきたサッカー部に入りすぐにエースになる。
勉強はあまり得意では無いものの人並みにはできたし、
サッカーでは毎試合英雄のように扱われてきた。
「青い目の高校生は化け物だ」とか「100万ドルの右足」って敵チームに言われたこともあったかな。
でもどんなにもてはやされてもこれは努力と少しの才能が生み出した『日常』なんだ。
そして俺はそんな日常に飽き飽きしていた。
まぁ、あきちゃんからの告白は昇天するほど嬉しかったけどな。
しかしだ、目の前の光景を見てみろ。
魔法を目の当たりにし、命の取り合いが行われている。
そして俺はなんでかワクワクしていた。望んだ非日常がそこにあったんだ。
残り3人となった男達。必死に攻撃しているが全く当たる気配はない。
「チッ・・・」
舌打ちした1人が手で合図し、3手に分かれる。
3方向から緩急をつけてユキを攻撃するつもりなのだろう。こんなやつらの考える事だ。違いあるまい。
俺は剣を抜き、屋根によじ登った。ユキみてーにすぱっと登りてーなぁ。
一方のユキは、軽く息を吸うと、瞬間また消えた。
一瞬で短髪細身の男の後ろに回りこみ、氷の刃となった手で首を掻っ切る。
鮮血が飛び散りユキの白い頬に撥ねた。
月に照らし出されたその顔は、いままで見た女性のどんな表情より美しく、そして儚かった。
それにしても・・・っ!
俺は息を飲んだ。
油断したユキを、隠れていた男が後ろから羽交い絞めにしたんだ。
「やっと捕まえたぜ・・・」
男は不気味なニタリ笑いを浮かべ、ユキに囁く。
「お前を始末すれば『あの方』から莫大な報酬がもらえるんだよ・・・
ちなみに情報屋ってのは俺たちが仕組んだ罠だぜ・・・へへへ覚悟しな。おい、ギース!やっちまいな!」
暗闇から長身長髪のギースと呼ばれた男が姿を現す。
「まさか2人も殺られるとはな・・・ちょっとした計算外だったぜ・・・」
そう言いながら変な形のナイフを取り出した。
「その形状・・・毒。」
ユキがつぶやく。
「よく分かったなぁ。だが分かったところで意味はねー・・・・なっ!!?」
ギースはナイフを突き出すと同時に動きを止める。
なぜって?
ユキを羽交い締めにしていた短髪の男が崩れ落ちたからさ。
「俺を忘れてもらっちゃあ困るぜ!」
この台詞と同時に男を背中から斬りつけ、崩れ落ちたそいつの後ろから現れたのは・・・
もちろん俺だ!やっと出番がきたよ。まぁこれだけだけどさ。
拘束を解かれたユキがゆらりと動き出す。
「くっ!」
という声と共に再び突き出されたギースのナイフを避け最初の男にやったように手を当て言った。
「あなたたちの敗因は彼を戦力外と決め付けていたこと。」
パリィン・・・・・・
紅い結晶が月明かりに煌いた